これ、本当に大丈夫?
ここ最近、このような悩みを持たれる方、たくさんいらっしゃると思います。
日経平均は2021年9月に30,000円の大台に乗ったあと、米国金利の引き上げ懸念により株式は下落基調へ。
ウクライナとロシアの戦争開始による地政学リスクの影響で25,000円台まで下落しました。
そんな下げ相場の中ですから、仕組債のノックインが多発し、損失が出てしまっているのが現実に起こっているのではないでしょうか。
そんな仕組債で損失が出た人のために、
- 本来仕組債とは本来どんな金融商品であるのか
- 仕組債で損が出てしまった場合、どう対応すればよいのか
以上の疑問に対して解説していきます。

【この記事を書いてるのはこんな人】
証券会社で商品組成に関する業務に10年従事。株、債券、投資信託の商品性のスペシャリスト。今は財務に関するお仕事をしているので財務・会計・税金にも強くなりました。
お金の勉強を初めてから初心者を脱し、中・上級者を目指す人に向けてのポイントを発信。もちろん、初心者にも分かりやすい情報も。【AFP(ファイナンシャルプランナー)/上級相続診断士】資格保有。
仕組債を知ろう【わかりやすい仕組債パンフレットの見方】
まずは「仕組債とはどんな金融商品なのか?」という問いに対する回答です。
仕組債とは、文字通り、一般的な債券にはみられないような特別な「仕組み」を持つ債券のことです。
この場合の「仕組み」とは、スワップやオプションなどのデリバティブ(金融派生商品)を利用することにより、投資家や発行者のニーズに合うキャッシュフローを生み出す構造を指します。
大抵の仕組債は、参照となる「対象指数」があり、
その対象指数の値動きによって金利が決まり、保有した後の償還時に還ってくる投資元本の額が変わります。
ん?どゆこと?と思うかもしれませんね。
実際に売られている仕組債のパンフレットを使って説明しましょう。
実際の仕組債のパンフレットは大体こんな感じ。
このパンフレットが意味する意味は、以下の通り。
- 「日経平均株価」を参照しており、
- 日経平均株価が判定日に当初価格の85%以上であれば高クーポンの4.5%(四半期ベース)の利率の利金がもらえる。
- 逆に85%以下であればロークーポンの0.1%の利率の利金になってしまう。
- 日経平均株価が判定日に当初価格の105%以上であったら早期償還され、元本100%で還ってくる。
- 早期償還されたらそれ以上受け取れるはずだった利金は支払われない。
- 日経平均株価が観測期間中終値が当初価格の60%以下になったらノックインとなる。
- ノックインとなった場合、満期償還時の評価額は、満期償還判定日の日経平均株価の最終評価価格によって計算された金額で償還される。
つまり、日経平均株価が、60%以上下落しなければ、元本は確保され、高クーポンの利息を貰えるという商品です。
では、仮に当初の条件が26,652.89円で決まったと仮定しましょう。
この仕組債をあなたが保有している間に、不幸にもノックインをしてしまいました。
ノックインが発生すると、満期償還時の時価評価額は、以下の計算式によって求められます。
計算式の見た目はややこしいですが、考え方はシンプルです。
例えば100万円投資していたとして、
最終評価日の日経平均株価の終値が20,000円だったとしよう。
ざっくり計算して、戻ってくる元本はなんと75万円程度。
これに年率4.5%のクーポンをもらっていたとしても、
年率45,000円から税金分が引かれて、せいぜい36,000円ほどにしかならない。
つまり、100万円投資をして、約21万3,613円の損失が出るという計算になるわけです。
※なお、源泉徴収されている利金の税金は損失が確定した翌年の確定申告を行うことによって取り戻すことができます。
仕組み債は本当に「やばい」のか。組成してきた人間の目線
損失が出るということで、「やばいではないか」
と思う方もいらっしゃるとは思いますが、
私は「だから仕組債はやばい」とは思っていません。
なぜか。
「望ましい運用戦略」とは何か、を考えた時に、
極力マイナスを出さない手堅い運用を目指すべきであり、
本来仕組債はそのために設計された金融商品だからです。
ええっ、それ矛盾してるじゃん!
と思われるかと思います。
違うんです、ちょっと私の話を聞いてください。
株や投資信託、債券は程度はあれど価値が変動するものです。
特に変動の激しい株をあなたが保有しているとして、
その保有している株が将来上がるのか、下がるのかは正直誰にもわかりません。
けれどせっかく資金を持っているあなたは、それを寝かしておくのはもったいないと考えます。
何とかして損失のリスクを抑えられないか?
そこで、一定以上の値上がり利益を放棄する代わりに、
一定の範囲までの間は損失を回避しよう…
ということが実現できるのが、例に挙げているような「仕組債」です。
これが金融の世界の一般的な考え方なのです。
ただ、今あなたに起こっている悲劇は、
日経平均株価が当初設定した60%を超えて下落してしまったために、
通常の日経INDEXに投資している投資家と同じように損失を被ってしまった。
債券という言葉から連想して、値動きの激しい株式より安全な商品と思い込み、
さらに営業マンからも「かたい商品ですよ」というセールストークに乗ってしまったのが問題なのです。
なので私から言いたいのは、「仕組債」がやばいのではなく、
仕組債を組成する時の経済状況を考慮せず組成し、
勧誘した証券会社側がやばいのであって、
「仕組債」自体は、実は使いどころによってはかなり使える投資手法であるのです。
しかも将来金利も上がりそう…株式市場にとってはマイナスだ。
でもそんな中でも、4%~5%の投資利回りを維持したい
と考える投資家には、
心の底からおすすめしたい、いえ、おすすめできる金融商品であります。
どんな条件なら仕組債を買っても良かったのか
以上の考えから、「仕組債がやばい」のではなく、タイミングが悪かった、というのが正解です。
では、どの条件なら仕組債を投資するにはよかったのか。
この問題も、非常に難解な問題です。
例えば、「タイミング」を議論するのならば、
参照している資産が、「ここまでは落ちないだろう」という明確な理由が無ければ投資にGoを出すのは難しいでしょう。
ですが、数年間ずっと仕組債を組成してきて、
「こんな条件の仕組債はノックインしやすい」というひとつの傾向があることに私は気が付きました。
実は仕組債は、とても高度な金融工学に基づく計算によってクーポンが設定されており、
そのクーポンは参照する資産、経済状況によってのボラティリティなどの要因で決まります。
私が組成してきた中で、
日経平均などの指数参照のものは2~3%以上
複数指数参照のもので5%を超えるもの
そして個別株を参照するEB債では10%を超えるもの
以上の仕組債たちはノックインされる確率が他に組成されていた仕組債と比べてはるかに高くなっていました。
この数値は、私がきちんと統計を取った数字ではなく、
肌感覚で感じた数字の水準ですので、正確ではありません。
また、今後の経済状況によって上記の水準は異なる可能性もあることも考慮してください。
それでも、私個人としての意見は、以上に挙げた数字以上のクーポンの仕組債は、
買わないという選択をするだろうなと思います。
実際に仕組債でノックインをしてしまった時の対処法
では、本題です。
実際あなたは「やばい仕組債」を購入してしまったがために、
ノックインし、損失が出てしまった。
この先どうしたらいいか?
まず、ノックインした仕組債が、償還されてしまっているのか、償還されていないかを確認してください。
償還されてしまっていたら損失は確定されるのですが、
償還されていない場合。
その仕組み債は絶対に売ってはいけません。償還されるまで持ち続けてください。
何故か。
それは、本当の損益が出るのは、最後の償還時までわからないからです。
貴方が持っている仕組債がノックインしてしまった連絡が営業マンから来て不安になるお気持ちはわかります。ですがそこで焦ってしまってはダメです。
まずは冷静に。
あなたの持っている仕組債は一時的にノックイン水準まで対象資産が下がってしまっていますが、
もしかしたら償還間際でその対象資産が上がる可能性だってあります。
それに賭けましょう。
なのであなたがすべきことは、この先、仕組債で組まれている対象資産の先行きがどうなるかを営業マンに聞き、ご自身でも情報収集をし続けることです。
営業マンに聞きたい質問項目
- 対象資産が下落した要因は一時的な要因なのか?
- 満期償還の条件決定日はいつになるのか?
自分で情報収集したい項目
- 対象資産が指数であれば各国の金利の動向、各種経済指標の動向、市場の方向性の確認
- 対象資産が個別株であれば個別株の決算書の入手と分析
情報収集をし、あとは戦略を立てます。
もしも、満期償還時にあなたの投資した資金までの回収がとても見込めない状況であれば、
満期償還時にどのように行動するかを考えておきましょう。
仕組債で損してしまった人の駆け込み寺がある
仕組債は中身が非常に複雑ですので、本当に理解した投資家にしか売ってはいけないという金融のルールがあります。
つまり、よく理解できずに買ってしまい損失が出て困ってしまった場合、
その仕組債を売った証券会社に異議申し立てができるのですが、
なかなか顔を合わせている証券マンに文句を言うのはできない…
と悩んでいる人は、あっせんセンターへ連絡する、という手段があります。
TEL:0120-64-5005(フリーダイヤル)
※ADR機関…裁判外紛争解決制度のことで、訴訟手続きによらず、民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続きのこと。
苦情等の相談にのってくれるので、
本当にお困りの方はご連絡してみてください。
まとめ
私の父の話をします。
父は真面目に勤めた職場の退職金1,000万円のうち、300万円を外株のEB債という仕組債に投資をしていました。
2021年の去年1年は米国株の投資環境がかなり良く、順調に資産を増やしていたのですが、
2021年9月に米株のドキュサインを組み込んだ外株EB債(仕組債)を購入。
買い付けた時がその銘柄の天井で、2021年11月末に大失敗した決算を発表。
株価が見事に大暴落し、ノックインされました。
その仕組債をすすめた営業マンからは、ドキュサインのその後の説明が少しはありましたが、
結局は「高い勉強代」ということで、損失を確定する予定です。
父の案件で多少希望が持てることは、
仕組債がEB債だったため、ノックイン後の満期償還時に対象銘柄の株券で還ってくるところ。
つまり、ドキュサインの現物で償還されるところです。
現物で還ってくるので、ドキュサインの株価次第ではリカバリーが可能、ということです。
現在、買い付けた株価の三分の一の水準の株価になってしまっていますが、
これが例えば少し株価が持ち直し、せめて二分の一の水準に戻ってくれば、
1年間買い付けていた時の利金分+急激な円安による外貨資産の評価高の影響を受けて、
プラスマイナス=ゼロになる可能性がある、ということでのんびりそれを待つことにしました。
以上の経験から、
「やばい仕組債を買ってしまったのは残念だったけれども、大切なのはその後の運用戦略の立て方だ」ということを身をもって実感した次第です。
この記事を読んでいるあなたも、戦略次第では必ず立て直しが出来ますから、
諦めず情報収集をし、決断してください。
私の記事が少しでも参考になり、実りある資産運用ができますよう、
祈っております。